第930話:ドウラキ・オモキ~裏に町があるタイプの話~

 導入を簡潔に省いてしまうと海で遭難して離島に流れついたと思ったら、島の裏には町があってそもそも島ではなかった。

「なるほど」

「なに、お兄さん遭難したのかい?」

 浜から森を抜け、道路に出て立ち尽くしてたら話しかけられた。

「あ、そうか遭難はしたんだ」

 船が難破して、漂着はした。

 これはよく考えたら裏に町があっても遭難には違いない。

「そういえば、携帯端末デバイスもなくしちゃったんだった、ここら辺に売ってるお店ないですか?」

 帰る前に携帯端末デバイスだけでも買いなおしておきたい。

 確かクラウドにデータ上げてあるから店頭で買ったものをそのまま使って会計できたはずだ。

「この町では携帯端末デバイスは売ってないなぁ、この町はあまり物が潤沢ではないから、少し苦労するかもな。遭難した気分でちょうどいいぐらいだと思うといい」

「??? 結構立派な町ですよね?」

 それなのに、遭難気分でちょうどいいとはどういうことだろうか。

「ターミナルはどっちにあるんですか?」

「ないよ、この町にターミナルはない。まぁ、住むところならいくらでもあるから、気にすることはない」

 まるでこの町に住むことが前提のような口ぶりだ。

「いや僕はここに滞在するつもりはないですよ、帰ります」

「いや帰れないよ」

「どういうことです?」

「遭難してるんだよ、君も、僕も、この町に住んでいる人はみんなね」

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