第925話:アクイス・コウガノ~空が落ちてきた日~

「お、太陽が低くなってきたな?」

 そろそろ暖季も近いだろう、そんなある日に誰かが言った。

 その時は誰も気にはしなかったが、数日後からは

「ほんとうだ、落ちてきている?」

「太陽が落ちてきている!」

「空が落ちてくる!」

 前日と比較してということで、徐々に太陽の位置が低くなっていることに気づく者が現れ始めた。


「まさかこの世界も終わるのだろうか」

 と、そんな不安がささやかれ始めてさらに数日、まぁよくもこうこんな与太話が広がったもんだと思いつつもローカルネットニュースのトップには世界滅亡論が並んでいて、おススメの地下国等への避難経路を紹介するサイトなどが表れ始めた。

 太陽は実際に低くなり続けていた。


「とまぁ、そんな感じで最近は町でそういう噂がありますけど、先生はどう思います?」

 町の人がどこかに避難したりしている中、普通に講義を開いていて、僕だけが来ていた。

「太陽は実際に落ちてきているんだろう?」

「観測所のデータ的にも太陽の位置は下がって来ていると、公開されているデータからは読めますね」

「じゃあ本当に太陽が落ちてきてるんだろう」

 与太話だと思ってて、まさかこの先生に裏打ちされてしまうとは思わなかった。

「じゃあ、逃げなくてもいいんでしょうか」

「逃げなくてもいいさ、どうせこの町には落ちてこないからね」

「え、そうなんですか?」

「そうだよ、グルヴェートならまだしも、この町は太陽の下から離れているだろう?」

「そういえばそうでした、ではグルヴェートが壊滅するんですか? 結構な被害になると思うんですけど」

 あそこは世界の中心であるというだけで、結構いろんな施設があったはずだ。

「実際、グルヴェートが滅ぶことはないと思うけど、太陽が落ちてきてることに関してはあんまり心配することはないよ。なんたって、毎年太陽は落ちてきているじゃないか」

「え?」

「知らなかったかい? 冬季が終わってさ、暖季に移り変わるタイミングで今まで昇ってた太陽が下がってくるんだ。だから、普段から空を眺めている人は気づいてもおかしくはないんだ」

「あー、なるほど……」

「噂になっているのもこの町だけでさ、いやまさかこんなローカルな空間でこんな話の広がり方をすると思わなかったな。以外と季節と太陽の関係を知らないというのも面白いデータだ」

 先生は笑いながら言う。

「それはいいんですけど、他のみんなはどっか避難しちゃってて、授業どうするんですか?」

「そうだなぁ、再び太陽が昇り始める夏季のはじめ辺りを待つかな?」

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