第915話:平井宗太~甘い話~

「おいおいおいおい、その手に持っているのはなんだ?」

 不意打ち気味に後ろから現れた幼馴染からの攻撃的なボディタッチを避けながら聞く。

「へぇ、目がいいね」

「隠せてないんだよ」

 昔からこういうノリで、暴力的な絡みをされるがかれこれ30年以上の付き合いだ、もう慣れてしまって軽くいなせるようになってしまった。

「ていうか、それプレゼントラッピングだけど、武器にしてもいいもんなのか?」

 誰かへの贈り物か、誰かからの贈られ物だろうに。

「うん? いーのいーの、これはあんたへのだから」

「俺へのかよ、それこそ殴んな」

 で、なんだよと受けとる。

「今日は日本では何の日か知ってる? ていうか、日本との日付合わせとかやってる?」

「やってないけど、冬で今頃だろ……?」

 えーと、もうすぐ春になる今頃の時期にあるプレゼントイベントってーと……

「バレンタイン?」

「当たりー! さぁて、中身は何でしょう?」

「そんなんチョコしかないだろ、やけに豪勢な包み用意しやがって、どこで買って来たんだ? 高かったんじゃね?」

「別に、そんなお金はかけてないよ?」

「……もしかして手作りか?」

「さぁ? 開けてみたらどう?」

 まさか、こいつが俺にチョコを……?

 疑わしく思いながらも包みを開けてみると、ハート型の箱が出てきた。

「おまえ、これ……」

「さぁ、ほら早く」

 こいつ……

「にやつきが隠せてないぞ」

 明らかに罠である。

 そもそもこいつが俺にチョコなど贈るわけがないのだ。

 それも手作りなんて。

「ほら、市販の徳用チョコ……で、え? あ?」

「まんまと騙されたね、これは正真正銘私の手作りチョコ! 今のあんたのその顔を見るために作ったドッキリ用のね!」

「ドッキリ、ドッキリか。びっくりした、死ぬかと思った、また」

 心臓が止まってなるものかと、逆にバクバクしているが、本当に止まるかと思った。

 どっちかっていえば脳が止まった、一瞬。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る