第916話:ダルカン・スイアト~深層意識化~
「こんにちは」
「……こんにちは」
隣人と朝の挨拶、いつになっても慣れない。
身長の半分を超える大きさの眼球、僕からは彼女の腰から上はそういう姿に見えている。
本来の彼女はそんな姿はしていなくて(この世界ではたまに見かける程度ではあるが)奇怪な姿に見えるようになったのはここ数日のこと。
朝、挨拶をするときに彼女の視線を強く感じる、そう思ってしまって全然慣れることができそうにない。
「最近いろいろなものがおかしく見えるんです」
そう、宙に浮かぶ耳と口に話す。
口の大きさが耳の10倍ほどはある、これも奇怪な姿。
最初に会った時はもっと耳が大きかった気がするが、そろそろ耳がなくなってしまいそうな気がする。
「無意識に、その人をそういう風に見ていたんでしょう、君が作り出した幻影ですよ」
口が言う、そんなことは僕が一番分かっているんだ。
本当に、口だけだ。
「心が弱っているのかもしれないね」と、薬を処方してくれたが、それは僕の生まれでは毒物とされていたものであったので、捨てた。
街にはカラフルな顔のないマネキンが歩き回っていて、家の中に帰るとあるはずの家具は一つもなくて、寝る場所だけが空いている。
倒れこむように見えない布団に沈み、そのまま疲れて寝てしまった。
意識が解けて、沈んで、記憶の中の、普通に見えていた頃の町の夢を見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます