第916話:ダルカン・スイアト~深層意識化~

「こんにちは」

「……こんにちは」

 隣人と朝の挨拶、いつになっても慣れない。

 身長の半分を超える大きさの眼球、僕からは彼女の腰から上はそういう姿に見えている。

 本来の彼女はそんな姿はしていなくて(この世界ではたまに見かける程度ではあるが)奇怪な姿に見えるようになったのはここ数日のこと。

 朝、挨拶をするときに彼女の視線を強く感じる、そう思ってしまって全然慣れることができそうにない。


「最近いろいろなものがおかしく見えるんです」

 そう、宙に浮かぶ耳と口に話す。

 口の大きさが耳の10倍ほどはある、これも奇怪な姿。

 最初に会った時はもっと耳が大きかった気がするが、そろそろ耳がなくなってしまいそうな気がする。

「無意識に、その人をそういう風に見ていたんでしょう、君が作り出した幻影ですよ」

 口が言う、そんなことは僕が一番分かっているんだ。

 本当に、だ。


「心が弱っているのかもしれないね」と、薬を処方してくれたが、それは僕の生まれでは毒物とされていたものであったので、捨てた。

 街にはカラフルな顔のないマネキンが歩き回っていて、家の中に帰るとあるはずの家具は一つもなくて、寝る場所だけが空いている。

 倒れこむように見えない布団に沈み、そのまま疲れて寝てしまった。


 意識が解けて、沈んで、記憶の中の、普通に見えていた頃の町の夢を見た。

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