第901話:ズイト・シイク~タイムラグ~
「ねぇ」
そう声を掛けられて、振り向いてみたが、今声をかけてきた様子の人は誰もいなかった。
ざわざわと人がまばらにいるだけで、僕のすぐ後ろには誰も立っていない。
「?」となって、前に向き直った時にまた後ろから、「ねぇってば」と呼びかけられた。
「誰だ?」
振り返ってみても、ダメだ。やっぱり誰もいない。
「気のせいか?」
人ごみの中で発せられた呼びかける声を自分宛と勘違いしているだけなのか、それともやはり後ろに誰かいて、声をかけてすぐに気づかれないように隠れているのだろうか。
そうは言っても、隠れることができそうな場所はあんまりない。
あって机の陰か、ロッカーの裏。
ロッカーの裏は現実的じゃない距離離れているし、声の聞こえ方からして、真後ろで話しかけられたのは間違いない。
「なんで振り向いてくれないのかなぁ?」
今度は確実に目の前から聞こえた。
完全に誰もいないのに、今そこから声が聞こえて、そちらを見ているにもかかわらず、「振り向いてくれない」とは一体どういうことなのか。
「うーん?」
声の主を思い出して見える辺りから探そうと思っても、全然記憶にない声だし、どうしたものか。
「この人もだめかぁ、他の人なら……」
また、声が。
それは徐々に遠くなっていって、それ以降すぐに後ろでは声は聞こえなくなった。
「何だったんだろう……」
もう気にしないことにして、作業に戻ったが「あれ、あの人きょろきょろしてどうしたんだろう……」という声が遠くから聞こえてきて、もしかしたらそういうことだったのかもしれない、という考えが頭に浮かんだが、声の主を探すのは難しそうだし、見つけたからといってどうにもできるわけではないので、予想通りだったらかわいそうだなぁと思う他なかった。
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