第884話:ロクラ・ソニト~再演~

 人生というのは、やり直しが効くものではない。

 故に人は悔いるのだと誰かが言っていた気がする。

 しかし、時として抱え続けてきた後悔が「忘れるなよ」と言わんばかりに再演されることがある。

 これは、そんな後悔の話だ。



 私は昔からなんとなく、避けている場所がある。

 あくまでなんとなく避けているだけで絶対に近付かないとか、そこにいるだけで具合が悪くなるようなことはないし、よっぽど私の近くで私を観察してるでもない限り、誰かに感付かれると言うこともないレベルで避けている。

 そして、今は不快ながらもその場所、人が集まり整列する場に立っている。

 友人の付き合いでなければ、今すぐにでもここを去るか、大規模テロ行為をして整列を乱したい。

 しかし、自分の不快感より他者の安全を慮る私にそんなことができるわけもなく、ただ整列に参加するのみだ。

 幸いにして列の端の方なので、最悪の場合離脱することも容易である。

 退屈になり、周りで並んでる人を眺めていると様子がおかしい人が目につく。

 と、首筋がざわつくような感覚。

 直感的に気づく、あれは昔の私だ。

 あの時の私と同じで、このままだと悲劇が起きるのは目に見えていて、それを自分と重ねてしまい、気分が悪くなる。

「おい、大丈夫か?」

 友人が声をかけてくる、顔に出ていたらしい。

「いや、」ちょっと気分が悪いから抜けると言いかけて止まる。

 ここで抜けるのは容易で、友人にも言い訳はつくし、過去の私から目を背けることもできる。

 しかし、それでいいのだろうか。

 これが、過去の私の後悔の再演であるとすれば、あの時のヒーローが現れず、序盤で悲惨なままに幕を閉じた悲劇に正しい形で幕を引くのは今なのではないだろうか。

「ごめん」一言謝った私に疑問の顔を向けた友人の顔は見ないように携帯端末デバイスを操作して、その場に閃光を迸らせる。

 列は乱れ、誰もが視界を失う中で私は様子がおかしかった彼の手を引きその場を離脱した。


「ありがとうございます……」

 トイレから出てきた彼に例を言われて、私の方としては余計なお世話をしたと、より自分を責める結果にならなかったことを安堵して、少しだけ心が軽くなった気分になる。


 人生やり直しは効かないが、再演で正しい結果を得ることもあるんだと、私は知っているんだ。

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