第885話:スニック・ドウン~並行世界実験~

「さて、一つ問題だ」

 指を立てて、注目と言わんばかりに話始める。

 ちなみに私は聞いているがそっちにやる視線は無いとばかりに自分の作業モニタを見ている。

 指を立てていると言ったのはそれが奴のいつもの癖で、この語り始めの時はいつもそうするからである。

 見て無くても、今回がそうであることは容易に想像できるほどに。

「君たちは並行世界を知っているだろう?」

 誰も返事をしなくても彼は語り続ける、この研究室の日常だ。

「私が今いるこの世界をA、仮に存在するとする並行世界をA’とする、そしてこのA’はAとの違いは一つも存在していないとしよう」

 その並行世界になんの違いもないのであれば、それは何の意味があるのだろうか、そんな考えが頭をよぎったが、そういうテーマではないようで。

「当然A’にも私、私’だ、私’がいて、それも当然のように私と同質であるとする、一挙手一投足全てにおいて一致する、今この時、私’もA’のこの部屋で同じことを話している」

 ふむ、そうなるとA’の話すA’は実質的にAのことになり……、同質であるという前提を逸脱する、その逸脱によりどう変化するのかを見る実験、でもないようだ。

「完全に一致する私と私’が何らかの拍子に入れ替わってしまったとしよう」

 ああ、なるほど。そういう話か。

「「それに私、および私’は気付くことができるのか」という話ですね」

 最後の設問に私の声が重なる。

「君、それは悪い癖だぞ」

「いえまぁ、あなたの話を読んでると楽しいのでつい」

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