第885話:スニック・ドウン~並行世界実験~
「さて、一つ問題だ」
指を立てて、注目と言わんばかりに話始める。
ちなみに私は聞いているがそっちにやる視線は無いとばかりに自分の作業モニタを見ている。
指を立てていると言ったのはそれが奴のいつもの癖で、この語り始めの時はいつもそうするからである。
見て無くても、今回がそうであることは容易に想像できるほどに。
「君たちは並行世界を知っているだろう?」
誰も返事をしなくても彼は語り続ける、この研究室の日常だ。
「私が今いるこの世界をA、仮に存在するとする並行世界をA’とする、そしてこのA’はAとの違いは一つも存在していないとしよう」
その並行世界になんの違いもないのであれば、それは何の意味があるのだろうか、そんな考えが頭をよぎったが、そういうテーマではないようで。
「当然A’にも私、私’だ、私’がいて、それも当然のように私と同質であるとする、一挙手一投足全てにおいて一致する、今この時、私’もA’のこの部屋で同じことを話している」
ふむ、そうなるとA’の話すA’は実質的にAのことになり……、同質であるという前提を逸脱する、その逸脱によりどう変化するのかを見る実験、でもないようだ。
「完全に一致する私と私’が何らかの拍子に入れ替わってしまったとしよう」
ああ、なるほど。そういう話か。
「「それに私、および私’は気付くことができるのか」という話ですね」
最後の設問に私の声が重なる。
「君、それは悪い癖だぞ」
「いえまぁ、あなたの話を読んでると楽しいのでつい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます