第855話:メリッパ_トネマ~濃い空気~

「なかなか耐えるじゃあないか」

 空気の濃度を上げすぎて、多少白くなっているこの部屋で、我慢大会なんて正直アホなことをしているな、とそんなことを思う。

 実際のところ、生物としての種族差でこんな遊びは簡単に勝負が決まってしまうというのに。

「僕は昔得た技術で呼吸を制御して、この部屋の中でも多少は長く意識を保ってられる」

 なるほど、道理でその体にしては長く耐えてるなと思った、呼吸法か、終わったときに記憶があれば教えてもらうことにしよう。


「君は他の参加者の介抱までして、なかなかに余裕があるみたいだね、秘密を後で教えてもらいたいものだ」

 あちらさんも同じことを考えてるようで、そろそろ意識が危うそうに見える。

 ルール上は倒れるまでが記録継続だが、そろそろ上がらせてもいいかもしれない。


 とはいえ、意識があるうちに上がらせるのは彼の勘違いを誘発させるか。

 私にはギブアップすることはできない、そもそもの話、私は参加者ではないのだ。

 審判というか、ここの管理人というか、呼吸はしてるが並大抵の濃度では活動に支障のない体質を持っていて、部屋のなかで暴力による屈服とかが起きないように見張ってる役割だったのだ。

 それを参加者の一人が朦朧とした意識で勘違いをしてしまったがためにややこしい状態になっている。

「もうあなたしか残っていないので上がってください」なんてことは既に伝えてあるが」それはギブアップさせるための策略と断じて上がらない。

 どうしたものかと考えて、仕方がないので濃度調整つまみをさらに捻ることにした。

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