第854話:ホウバ・サイクル~神隠しの訳~

「ここは……」

 見覚えのない場所、また神隠しか。

 夜の宗教施設、この様式はどこの世界のものだろうか。

 やけに通っている割に死角の多そうな石灯籠の列や自然林は神の好みか、どこからか不気味の演出かひそひそ声が聞こえてくる。

 もう慣れてしまった、体質的な物なのか、僕は頻繁に神隠しに遭う。

 この世界で生まれてからもはや15度目、これで慣れない方がおかしい。

「で、僕に何の用があって呼びつけたんです?」

 こういった神隠しのようなことができるのは文字通り、神の類。

 話し方に礼儀を乗せる必要はない、意味を込めて喋るだけで大体通じるし、人間の間での礼儀なんて気にする神はそういない。

「なんだ、もう少し不安がるかと思ったが……」

 並んだ石の灯篭の陰からぬるりと一人の青年が現れた。

「もう15度目なもので、驚けという方が無茶ってもんです。なんですか? 神々の間では僕さらいが流行ってるんですか?」

「なぁに、君は魅力的なのさ。神に愛される容貌をしている」

「顔ですか」

「魂の在り方と言ってもいい、顔というのはそれが出るのでな。人間に判断できるものかはわからぬが」

「まぁ神様方に愛されるのは悪くないけども、あんまり用もないのに呼びつけるのはやめていただきたい。僕はまぁ暇ですけどこういった体験に飢えているわけではないので」

「用がないわけではない、美しい物は近くで愛でたくなるであろう?」

「その気持ちはわからんでもないですが、」

 神様には生前に愛してほしかったな……

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