第845話:ファンズ・メイニィ~階段の途中で~

「やぁ、君も階段に惹かれて?」

 階段を降りていると珍しく昇ってくる人に出会った。

「どうも、ずっと上ってるんですけど、全然終わりが見えなくて、降りてきたってことは、上までたどり着いたんですか?」

「うん? 僕は確かに上から降りてきてはいるけど、僕は地下に降りているつもりだったよ?」

「上の方に住んでる人ってことですか?」

「君は地下に住んでいたのかい?」

「私は、下の地上から上ってきてるんだけど」

「僕は上の地上から降りているんだけど?」

「?」

「?」

 話がかみ合わない。

「上から降りてきたんでしょう?」

「下から上ってきたんだろう?」

「そうだけど……」

「その通りだが……」


「ちょっと、整理しよう」

「私は近所に生えてきた塔に登ってきたんだけど」

「俺は穴が空いてたから降りてきたんだ」

 嘘をついている様子はないし、そもそも嘘をつく理由が思い当たらない、嘘を疑う理由もない。

 向こうも同じように考えたらしく、すぐに納得してくれた。

「やっぱり空間がおかしい類の穴だったか……」

「穴じゃなくて塔よ」

「こっちでは穴だったんだよ、まぁ塔でいいか」

「もしあの塔の中に入らずに外壁を上っていたらどなっていたのかな?」

「それ気にすることか?」

「気にならない?」

「まぁ気にならなといえばそんなことはないが……」

「さて、じゃあ私は登っていくかな」

「登るのかい?」

「気になるじゃない?」

「僕はどこに繋がっているか分かったから帰るよ」

「じゃあ一緒に登りましょうか、つかれたらおぶってね」

「断る」



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