第846話:スニー・ベイド~螺旋書架~

「書物というのは、塔に収めて然るべきだとは思わないかね?」

「そんなわけないでしょう、なんですかこの検索性もランダムアクセス性も皆無な書架は」

 吹き抜けの螺旋階段、壁にはみっしりと本を並べるための棚が埋まっており、私には読めない本がぎっしりと詰まっていた。

「なぜだ、この壮観な構図、最高ではないかね?」

「確かに絵としては素晴らしものだと思うのだけれど、驚くほど実用性が無いように見えるのですが」

 読みたい本の場所を把握していても、階段を上って、その周辺の本棚をざっと見て、棚から抜いて、さらに譲歩しても階段に座って読むしかない。

「本読みというのはできるだけ動かずに本を読みたい生き物だと思うのだけど?」

「物事には例外もある」

「ていうかあなた、車椅子でよく螺旋階段とか用意しましたよね?」

 見たところスロープも敷設していないし、あっても斜度がきつくなりすぎて、あの動力のついているようには見えない旧時代的な車椅子では登れそうに無い。

「まぁその辺はね、この車椅子も雰囲気用の飾りだしね」

 そう言って彼は、普通に椅子から立つかの如く、無い脚で立ち上がった。

「何をそんなに驚くかね。この書架もね、こう」

 上に手を伸ばすと上の方から一冊、手元に飛んできた。

「まぁ、この階段も本棚も絵面だけさ、しかし私にとってはこれで良いのだよ」

「……あきれた」

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