第844話:メリア・スファニ~無重力振り子~
球体な部屋の中心で振り子が揺れている。
私はそれを逆さまに浮かびながら眺めている。
いや、体感的には逆さまでも何でもないのだけど、その振り子が私が逆さまであることを示していた。
私はこの振り子以外の何もない部屋が好きだ。
重力から解き放たれるのはもちろん、ただ揺れるだけの振り子しかなく、気分転換には持ってこいだ。
球体の部屋で重力は無く、持ち込みさえしなければ無音無臭、空気ノイズや建材臭の一切がない。
元より自分の身に着けている匂いなんて会ってないようなもので、ありとあらゆる雑情報がここには存在しない。
振り子が揺れる、下はあっちだと、示すように頭上を指して、揺れる。
ここを見つけてすぐに私はこの振り子を手でつかんで振り回したが一方向を指して安定した触れ方をした。
いや、この部屋の中だとどちらが上でどちらが下もなくて回転の感覚もまったく知覚できる指標がないので、出口を開いた時に必ずその向きに振り子が揺れているということから振り子だけが重力の影響を受けていると推察したわけなんだけど。
振り子がゆれて、私は浮かんで、本を一冊読み終えたころには頭上で揺れていた振り子は足元で揺れていた。
ちょうどいい、今日は帰ることにしよう。
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