第841話:シマ・ライシ~幸福であること~

「ねぇ、君は今幸福かい?」

 所長が妙なことを聞いてくる。

 どうやら暇を持て余しているようだ。

「はぁ、まぁ不幸ではないですので、まぁ一応幸福ですかね」

「なるほどね、君はそう考えるんだ」

 なるほどとは。

「僕はよくさ、幸せってものについて考えるんだけどね」

 語りが始まった、これは長くなるぞ。

「幸せの基準ってのは人によって違うわけじゃないか」

「そうですね」

 文化によっても結構違いますよね、と適当な相槌を打つ。

「そうそう、空腹でなければ幸福だという人もいれば、満腹でないと幸せでないという人もいるだろう?」

「ああ、そういう話ですか」

 さっきのなるほどねという返しの意味がやっと分かった。

「そう、君は満たされてなくても幸せなのさ、不足でなければ幸せという考え方」

「あんまり考えたことはなかったけど、そんな感じですね」

「どちらが幸せかは、秤にかけようがないのだけどね」

「でも、満たされてなくても幸せの方が幸せになりやすいのではないですか?」

「幸せの質という問題もある、満腹な時の幸せは空腹じゃない時の幸せと比べてどうだろう?」

「それは、確かにそうかもしれないですね」

「人によっては幸せじゃないことが幸せという人もいるかもしれない」

「それはちょっとわからないです」

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