第842話:オイケ・サイゾウ~高層ビル~
「高くねぇか?」
「高いねぇ~」
見上げる程の高層ビル、こんなのは初めて見た。
「雲より高くない……?」
「高そうに見えるねぇ~」
「なんでこんなもん作ったんだろうな?」
「なんでだろうねぇ~?」
「土地は周りにいくらでも空いてるのに、なんでこんな詰めた土地の使い方してるんだ?」
「なんでだろうね~? でも、今日はここに用があって来たんじゃないの~?」
「そうなんだよなぁ、ずっと見上げてても首が痛くなるだけだし、入るか」
「だね~」
「で、どこから入るんだ?」
一面ガラス張りのそのビルには、入り口が見つからない。
「さぁね~?」
やけに広い外周をぐるっと一周しても見当たらない。
「貰った住所はここだもんな?」
「間違いないと思うけど~」
その後もグルグルとビルの周りを回りながらガラスにべたべた指紋を付けても全然入り口が見つからない。
「呼びつけておいて全然歓迎ムードじゃないの、何なんだろうな?」
「さあね~?」
「というか、このガラスぶち抜いてもいいんじゃないか?」
「やっちゃう~?」
「やめてくれよ」
自分でも物騒だと思う発言をしたら後ろから止められた。
「うちの事務所はこっち、そのビルじゃないよ」
声をかけてきたのは俺を呼んだ奴だった。
「そのビルは何かよくわからないもので……よくわからないものです」
そう言って案内されたのはビルの脇にある小さなプレハブ小屋だった。
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