第838話:光の中で
色とりどりの光で満ちた穴の奥。
おおよそ感性を持つ生物が一瞬見ただけならば綺麗だと思うその光景の奥の奥、幸いにして視覚を持たない、玉虫色の、実の色は一切わからない名前を持たない虫のみが生息するその奥。
不幸にも色のない卵がひとつ、いつまでも眠る人を中に抱えて転がっていた。
その人は幸いかどうかは別として眠っている間は食事を必要とすることなく、強い刺激を受けるまでは眠り続ける体質で、動物も人も寄り付かないこの洞窟で寝ているので起こしに来ることも無く、半永久的に眠り続けることだろう。
かれこれ、彼がこの洞窟の奥に現れてから、1200年程経過しているが一向に起きる気配も起こされるがない。
処変わって洞窟の入り口、光の漏れる穴にして人を狂わせる穴として名の知れたその場所に訪れるひとつの影があった。
それはおおよそ知性のある生命体ではなく、色とりどりの光に寄せられてやってきた野生動物が一頭。
一切の危険が感じられない、見ようによっては良い物がありそうな光の洞窟にふらふらと空腹を満たせるものがないかと潜り込んだ。
洞窟の奥、卵は相も変わらず沈黙していたが虫たちは騒ぎ始めた。
視覚に頼らない感覚系が洞窟への侵入者を感知したのだ。
洞窟へ入り込んだ動物は、既に動かなくなっていた。
空腹からではなく、常に色とりどりに明滅する光の中で前も後ろもわからなくなり、脚を動かすことすらできなくなっていた。
動かなくなったそれは、光を反射して輝く虫は群がられ、まるで分解されて光になるように消えた。
洞窟の奥で眠る彼は、まだ眠ったままだ。
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