第836話:エクソ・ブリード~行商~

「やぁお兄さん、何か必要な物はないかな?」

 これ見よがしな大きなリュックサックを揺らして道行く人に声をかける。

「珍しいな、行商人とは」

 珍しがられるがそれはそうだ、通販も店舗も流通も充実しているこの世界で成立する職業ではない。

「いやぁ、皆さんそう言うんですがね、それはまぁ、ニッチ産業って奴ですよ。凍世界、行き届いていると言ってもおおざっぱでいけない」

「そうだろうか」という表情で話を聞いている、まぁ話を聞いてくれているだけ上々だ、話も聞かずに去られるよりはマシ。きっと精神的に余裕があるんだね、いいね。

「まぁ、品ぞろえを見てからにしなよ。結構自信あるんだ」

 脚を止めたらこっちのもんだと、リュックを下ろして荷を広げ始める。

 こんな世界で行商人をして結構長い、相手のほしいものを見抜く目もずいぶん育ったものだ。

「こんなのはどうだい?」

 ごそごそと鞄をあさって、さも奥から探し当てたかのように瓶を3つぐらい取り出す。

「これは、なんだい……? 瓶?」

「薬瓶さ、効能は……これがなんだったかな? とにかくいい薬だよ!」

「薬効もわからない薬はさすがに買えないよ」

「そうですか? ギャンブルみたいで楽し気じゃないですか? じゃない、そうですか」

 いそいそと鞄に瓶を三つしまう。

「じゃあこんなものはどうです?」

 じゃあこれだと、人形を適当に取り出す。

「……僕に人形を愛でる趣味はないよ」

「そうですか? 贈り物とかにいいと思うんですけど」

「そんな相手がいたらいいんだけどね」

「いないんですか? そういえばさっきの薬の効果を思い出したよ」

「……なんだい?」

 これ以上ひっぱるのは無理かな~って感じ、まぁもう決めちゃうからいいけど。

「たしかあの薬は……惚れ薬だったかな」

「……なるほどね、人形と一緒に頂こうかな」

「はい、どうぞー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る