第821話:シーズ・リアツ~私の処~

「寂しくなったら私の処に来なよ、私はいつでもに居るからさ」

 そう、彼女は言った。

 それからしばらくは彼女について回って過ごしていたけど、いつしか彼女に依ることなく過ごせるようになった。

 だんだんと、彼女のところへ行く機会は減り、別れを言うことなく僕は彼女との縁を失った。


 日は巡り、僕はふとしたことからまた一人になった。

 しばらく誰にも会うことができず、一人で閉じこもりがちになっていたその時だった。

 彼女の言っていた、「いつでもそこにいる」という言葉を思い出したのは。

「どこのことだったっけ……」

 いつも、そこにいたはずなのに思い出せない。


 記憶にある彼女といた記憶のある場所を順番に巡っても彼女とは出会うことはできず、「もう、彼女もいなくなってしまったのかな……」とそんなことを思ってしまった。

 そりゃあそうだ、彼女だって人だ。

 いつまでもそこにいるわけがない。


 思い当たる場所はここで最後だと、そう思って記憶にある場所の扉を開けた。

「おや、シーズ少年かな? 久しぶりだね」

「あ……、まだいてくれたんですね……」

 そこに居たのはあの時と変わらない姿の彼女だった。

「そりゃあね、私は何処にも行かないよ。とはいえ、君はずいぶんと焦って頭も回らなかった様子だ、ずいぶん探し回ったと見える」

 そう言われて思い出した、

「君は私の連絡先を持っていたはずだろう。電話さえかければ一発で私に会いにこれただろうに……」

「そういえば……」

 あの頃はそうやって彼女の処に通っていたんだった。


「そういえば、前に言ってたいつもいるって言うそこってどこなんでしたっけ」

「なんだ、そんなことも忘れてしまったのか。しばらく見ない間ずいぶんと幸せだったらしい」

「う……」

「その寄る辺も失ってしまったんだろう、その顔と慌てて私を探して来たんだ、分かっているさ」

「……で、どこなんです?」

「私の処さ」

「?」

「まったく、私は誰かに依ったりしない。だからいつでも私に依りに来てもいいって言ったのさ。私が居るのは私の処だけだからね」

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