第822話:カラゴー~理論上追いつけない~

「面白い物を捕まえた」

「面白いもの?」

 そう言って、見せられたものは亀。

「亀か?」

「亀だ」

「珍しい亀というと、脚が早い亀とかそういうのか?」

「いや、その辺は普通の亀のイメージで間違いない、足が遅くて甲羅が硬い、普通の陸ガメだよ」

「普通の陸ガメのどこが面白いんだ?」

「普通の陸ガメに見えて普通じゃないから面白いんだよ」

「で、どういうところが普通じゃないんだ?」

 教えるなら早く教えてくれ。

「なんとな、この亀には絶対に追いつくことができないんだ」

「絶対に追いつけない?」

「ああ、絶対にだ」

 さっき普通の足が遅い系の亀だって言ってなかったか?

「まぁやってみればわかるさ」

 そう言って、亀を少し離れたところにこちらに背を向けた形で置く。

「さぁ追いかけてみろ」

 亀はこちらから離れるように歩き出す。その歩みは遅い。

「いや、普通に追いつくだろう」

 そう、足を踏み出して走る必要も無いだろうと歩き出して歩を進める。


 数歩進んだところで違和感に気付く。

 何かおかしい、いや、何かではない。

 体が重くなっている、いや、これは時間の進みが遅くなっている?

 わずかわずかには進んではいるのだけど、徐々にそれは遅くなり、それに追従するかのように回りの速度も遅くなる。


「!?」

 驚いて足を止めると時間の流れは普通になっていた。

 亀も、何にもなかったかのように歩き続けている。

「どうだ、おいつけそうだったか?」

「無理だなこれは……」

 確かにこれは面白い。


「どうやってこれ捕まえたんだ?」

「ん、普通にこうやってだよ」

 そう言って、歩き続ける亀から離れるようにして亀の前へ行き、歩いてきた亀を拾い上げた。

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