第818話:サーコン・パレス~失ってきたもの~
「さて、始めようか」
暗い部屋、ろうそくをいくつか立てただけの灯りしかない、それにしては広い室内で六人。
「失ったものを、失ったままにしないために」
「取り戻せなくても、取り戻す必要がないように」
「二度と還らなくても済むように」
「ここですべてを断つために」
「さて、失ったものを数えよう」
ろうそくは一斉に吹き消された。
「これって、ここからの流れどういう感じでしたっけ?」
「失ってしまったものを数えながら火をつけていくんでしょ? ちゃんと進行表は配ってるでしょ」
「暗くなった拍子に無くした……」
「そもそもこう暗くちゃ、見えないけどな」
「それもそうか」
いきなり進行がぐだぐだし始めた時、ろうそくがひとつ点いた。
「……誰か点けたか?」
「いんや、もう始まってるんだろ? 儀式」
「ああ、進行表を無くしたからか」
「ろうそくひとつ点いて少し明るくなったし、進行表探してみたらどうだ?」
「さっきから探してるけど見つからないんだよ」
「ろうそくがひとつ点いてるってことは無くした物に数えたってことだろ」
「ああ、断たれたんだな」
「何が?」
「縁が、たぶん二度と進行表は出てこない」
「そういう儀式だからな」
「儀式の始まりがこんなぐだぐだでいいの?」
「順序さえ踏めば問題はないよ」
「解釈的には進行表はこのろうそくの火になったってことでいいのよね?」
「そういうことだけど、こうも綺麗に無くなるとは思わなかったな」
「もしかして怖くなったかい?」
「無くしたものへの諦めを付けるための儀式でしょ、続けるしかないでしょ」
「うん、途中でやめるなんて言われたらどうしようかと思ってた」
「ああ、確か途中でやめたら意図せぬ何かを失う、だったか?」
「何を失うかはわからないけどね。さて、続きをしよう。次は、パレスの番だよ」
「お、おう。俺が失ってしまったもんは……」
このまま儀式を続けたら、本当に二度と
「ほら、早く数えるんだよ。いつまでも苦しみたくは無いだろう?」
「言ってしまえば一瞬で終わる、枕を涙で濡らす日も終わりだ」
「そ、そうだな。俺が失ってしまったものは、前の世界の恋人だ。元より死に別れだったんだが、この世界でいくら探しても見つからない」
ろうそくが点き、失ったものに数えてしまった。
「これって、その恋人さんがこの火になったってこと?」
背筋が寒くなるのを感じた。
「いいや、そんなことになったらこの儀式は禁止されていてもおかしくないよ。たぶん、パレスと彼女の縁か、出会いか、かな」
「なんにせよこれで諦めが付いたってわけだ。よかったな」
今、ここで本当に無くなったのは、彼女との縁だけだっただろうか。
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