第819話:カラグ・ズノオ~描画現実~

「これは……ARグラス?」

 テーブルの上に置かれた2つの薄型透過モニタのメガネ。

「そう、新型らしくてな。いままでも携帯端末デバイスの一モデルとしてのARグラスはあったんだが、これは新型というか新方式でのARグラスらしくてな、表示の内容とか、仕組みとか、判定の取り方とか、なんというか面白いんだ。ちょっと見てみないか?」

「へぇ、アプリとかが斬新とかじゃなくてARグラスが新しいのか。どんな感じかね?」

 受け取って、かけてみる。

「うん? 普通のARグラスじゃないか?」

 机の上にさっきまでは見えなかったカップがひとつ、見えるだけの普通のARグラスに見える。

「そうだな、普通に見えるよな」

 そう言って、AR表示されたカップを拾って飲んだ。

「!?」

 驚いてメガネを外すと、その手には何も持っていなく、ニヤニヤしていた。

「普通のARグラスだったか?」

「詳しい話を聞かせてもらっても?」

「もう一回掛けな、そっちの方が話がしやすい」

「……わかりました」

 ARグラスをかけるとまたさっきのカップが机の上に置かれた。

「このカップの飲み物は飲める?でいいんですか」

「いいや、俺がさっきやったのは飲むふりだけさ。実体はないからね」

「堂々とやりすぎて実際に飲んでたのかと思った……」

「本質的にはこういうこと」

 また別のカップを取り出してきた。

「これも、AR表示されたカップですか?」

「これは実体もあるよ」

 グラスを上げて見てみろと促されて確認すると、最初からあった方は消えて、後から出した方が残った。

「さて、ここからが本質」

 何気ない手つきで、カップを掴み、持ち上げるとカップが増えた。

 持ち上げたカップと、机の上に置かれたカップで二つだ。

「コピーできるんですね、机の上の方が描画されたカップですか?」

 実体がある物体を追加でAR表示してコピーするなんてことはよくある話だと思うんだが……これが新しい機能というやつなんだろうか。

「いや? こっちの持ち上げてる方が描画されたカップだが?」

「えっ?」

 慌ててグラスを外すと確かに机の上にカップが残されたままだった。

「これはどういう……」

「つまりはこう、ね」

 机の下から手を出してきて、その手が先ほどのカップと同じように増えた。

「さて、この腕はどちらに実体があるでしょう」

 普通に考えれば動かした方……だけどさっきのことを考えると

「動いてない方だ」

「当たり、つまりこのARグラスはね。もう現実に一つのレイヤーを作ってそこに物を描画していると同時に、そのレイヤーに物理干渉できるようにしてくれるのさ。で、コツをつかむとそっちのレイヤーだけで動くことができてね。こういう感じで」

 そう言うと、体ごとズレた。

「おもしろいだろ?」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る