第791話:ヌーイ・クスス~口から出る泡~

「ふわ~」

 あくびと共に口から泡がひとつ沸きだしてきて、虚空に消えた。

「なにその泡」

「あくび泡のこと?」

 あくび泡とは。

「あくびしたら出る泡、もしかしてあくびしない人?」

「あくびはするよ、あくびしてもそんなふうに泡とかでなくない?」

「え~ほんとにぃ? ちょっとあくびして見せてよ」

「あくびなんてしようとして出るものじゃないだろ」

「出るでしょ、ふわ~」

 また口から泡が、ふわりと浮かんでパチリと消える。

 どうやらあくびに関してどうにも合わない文化格差があるようだ。


「ふわ、ふぅわ」

 あくびでないな。

 もしかしたらあくびをするときにうまいことしたら口から泡が出るかもしれないと、あくびが出る度になんらかを試してみようとしてるんだけど、一向にあくびが出ない。

「こうだよ、ふわ~」

 浮かぶ泡、消える泡。

「ふわ~ふわ~」

 浮かぶ泡、消える泡。

「ん?」

 なんか違和感がある。

「それあくびじゃなくね?」

「え?」

「あくびってのは、こう、眠気を感じたときの反応じゃないのか?」

「眠いときに出るよね」

「眠いときに勝手に出るが眠いときに意図的に出せるもんじゃないだろ」

「え~」

「ていうか、さっきからずっとあくびしっぱなしじゃねぇかどうなってるんだ」

「ずっと眠いからさぁ、ふわ~」

 泡ふわりと、パチリと消えた。

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