第790話:ルーマ・ゼンプス~夜の道端~
夜の散歩中、いつもここの自動販売機の横のベンチで休む。
冷たい風が吹く中の、暖かい飲み物で体を温め吐く息は白くなる。
珍しく手入れされてなく劣化している街灯が、ノイズ混じりの光で薄暗く照らしていた。
「寒くなってきたね」
「あ、どうも」
いつも、というほどの頻度ではないが出会うときはいつもここ、そういう知り合いだ。
「あったかい飲み物が自動販売機に入るのってもうちょっと前の時期からでもいいと思わない?」
自動販売機で最近から並び始めたあったかい
「まぁ、思いますね。何飲むんですか?」
「ん」
缶を開けながら、こちらにパッケージを見せてくる。
大手飲料製造会社が作っている、血迷ったのかと疑っちゃうようなやつ、炭酸系のお茶。
しかもホットだ。
「それうまいのか?」
「いんや、おいしくはない」
「じゃあなんで飲んでるのさ」
「好きなんだよ、結構な」
「おいしくはないのに?」
「おいしくはないのにだ、良し悪しと好みはまた違うもんだからな」
「そういうもんか」
「そういうもんだよ」
一息に飲んだ空の缶をゴミ箱に突っ込んで、彼は去っていった。
いつも一本飲んだら行ってしまう。
彼も散歩の途中で立ち寄っているのだろうか、僕みたいにベンチに腰を下ろすようなことはしないけど。
「それも散歩の形だよな」
僕も飲んでいたホット出汁の缶を捨て、家の方へ歩き出した。
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