第769話:オオモリ・ハツカ~透明カラー~

 物は通りの良い方が良い。

 透明性が高い方が質が高いと、健全だと、すべてにおいて優れていると、そういう文化だった。

 この世界に来てからそんなことはないと知って、だいぶ感覚は変わったけど、まだふとした瞬間の判断基準は透明性になってしまう。

「とはいえ、これは流石に無いよなぁ……」

 引っ越し先を探している際に出身を伝えた時に紹介された物件なんだが……、全面透明な壁で構成されている、透明な天井の透明なドアの透明な建物だ。

「一瞬、透明な建物いいな」って思ってしまった自分の感覚を早く直してしまいたい。


 それにしても、全部透明な建物か……。

 どういうところに需要があるのだろう。

 透明なことに良さを感じてしまう人向けなんだろうか。

 気持ちはわからんでもないが、もしかしたら何かあるのかもしれない。


 中に入ってみると、当然のように中から外が見える。

 完全に素通しだ。

 もしかしたら、中からは外が見えないような構造になっててまだ落ち着くようにできているかと思ったんだが、全然そんなことは無かった。


 何なんだこの家、透明で外から中が丸見えで、日光は軽減してまぶしかったりはしないのだが、どうにも落ち着かない。

 外から丸見えだから、見られているような気がする。

 いや、今は外には誰もいないから……?

 あれ、何かおかしい気がする。

 入る前ってこんなに人通り少なかったか?

 なんだかおかしいなと、一度外へ出て驚く。

 人通りがないどころか、多い。

 もう一度中に入って外を見る、誰もいない。

 一度外から見えるところに荷物を置いて外へ出て中を見る。


 これは……、透明に見えて透明じゃない……?

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