第757話:ボウラ~地下倶楽部~

 ノイズ混じりのラジオが鳴っている。

 いつの時代の、どこの世界の歌かはわからない、異世界の言葉で軽快な曲にのんきな歌を合わせたとにかく空気をマイルドにする曲だ。

 薄暗い照明に照らされたここは【地下倶楽部アーラン ザクト】、秘密のバー。

 壁にむき出しの配管が走っていたり、いつの物かわからないポスターが張られていたりと、全体的に古臭く錆び臭い、狭いし閉塞的な雰囲気がこの店の歴史を感じさせる。

 やけに光るボトルに入ったやけに匂いのキツイ名前も知らない酒を喉に流し込めば、体が火照り思考は鈍る。

 ラジオから流れる音楽は言葉と曲の境界も定かではなくなり、マスターが何かを言っているが聞き取れない。

「ごゆっくり」

 そう言ったと思う。


 目を覚ましたら時間はすでに夜、空きボトルが3本。

「やっと起きたかい、効きすぎたかもね」

 ん、ああ。

 変な夢を見た気がする。

 ていうか、アレだ、トンでたと思う。

 地下のバーで光る酒を飲んだら意識を失ってっていう体験をすることになるとは……

「マスター、これは……」

「んん? 効きすぎたかな。覚えてないかい? そもそもここはどこだった?」

「地下倶楽部……」

「よしよし、じゃあ地下倶楽部は何をするところだ?」

「えーと、隠れ家的な……? 黒いことをやるための……」

「あー、こりゃあだいぶ記憶が飛んでるな。とりあえずこれ飲め、たぶん思い出すから」

 受け取ったカップの中の妙な甘みのある液体を変な痛みのある喉に通すとだんだん頭がはっきりしてきた。

「地下倶楽部は、安全合法的に違法行為の体験ができるシチュエーションハウス……」

「そう、ここはシチュエーションハウス、ちゃんと現実認識してから外に出るんだぞ」

「あ、ああ、もう大丈夫だ」

「そうかい、足元がふらつくようだったらもうちょっと休んでいくんだぞ」

「大丈夫、大丈夫だ」

 なんとか席を立ち、外へ続く扉を潜る。

 底は地下でも何でもなく普通に地上で「地下倶楽部、新装開店」の札が掛かっていた。

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