第758話:ヴァリアン・コイン~ツリーハウス~

 空が薄青い夜、平原の只中に一本生えた大きな木。

 広く広がった太い枝葉に、隠れるようにして作られた小屋が乗っていた。

 帰ってきた僕は、石を投げてはしごを降ろし、先に自分が昇って客人を招き入れる。


「不便ですまないね。ここが僕のうちさ、どうだい?」

 流石に交通機関がなくて平原をほぼ歩きでくるのはさすがに遠くて厳しい、客を招き入れるならもう少し考えた方がいいだろうか。

「ツリーハウスですか、また珍しいものを……もしかして森の民でしたか?」

「いや? ただの趣味だよ」

「趣味でこんなところに、いや趣味だからこそですか」

「うん、ここに越してきたのはだいたい3年ぐらい前かな」

「その前も別の木の上に?」

「いや、前は普通に町の方に住んでいたよ、この場所を見つけたのは偶然でね」

「偶然、いったいどういう?」

「仕事でこの辺に来た時に、猛獣に襲われそうになったんだけど」

「逃げ切れたんですか、いや今こうしてるんだから逃げ切れたんですよね」

「うん、何とか逃げた先がこの木の上でね、まぁその時は一晩ここで明かしてなんとかなって」

「命が助かったからってそれでこの場所に?」

「いや、その時はこんな猛獣が出るような場所二度とごめんだって思ってた」

「じゃあなぜここに?」

「帰ってからなぁ、仕事が嫌になってな……」

「ああ……」

「そうなったらここも悪くないと思い始めてな、知っているか? あの枝で寝るといい感じに風で揺れて気持ち良く寝られるんだ」

「それで」

「そう、家をこっちに持ってきて仕事はやめた。君と出会ったのはまぁ一季一度の会だしの時さ」

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