第723話:イルン・ゲーパ~仮想作業場~
HMDを起動して、仮想空間に入る。
狭い部屋から、広くて何もない空間に視界が移り変わる。
「さて、今日もやるか」
発言に呼応して作業机が現れる。
道具もいくつか現れるが、まぁ全部雰囲気づくりだ。
のこぎりやハサミとかいろいろな物が置いてあるが、何も使う予定はない、そもそも機能が実装されてない、見た目だけのオブジェクトだ。
昨日やりかけで寝た作業を呼び出して、どこまでやったかを思い出す。
だいたい思い出して、順調に再開する。
バーチャルナイフでオブジェクトを切ったり張ったりして、形を整える。
回転させたりしながら、いろんな向きで眺めてまた形を整える。
うーん? 微妙な感じ、色付けたらもうちょっとどうにかなるかな。
まぁこの辺はこんなもんか、次行くか。
ある程度の作業をしてデータを保存、仮想作業場から抜ける。
先ほどまでの広い空間と違う、狭い部屋を見てため息をつく。
この部屋ではあんな自由な作業をするのはできないし、物を浮かばせていろんな角度から眺めるなんてことは不可能だ。
しかも壁も薄いから雑音もすごい。
それに引き換え仮想作業場は空間も無制限だし道具もなんでも使える。
環境音も自由自在だし、人がいるところで作業しようと思えばお互い干渉せずに顔を合わせて会話しながら作業することもできる。
部屋の広さに課金する意義を見出せなくなった結果、こんな狭い部屋になってしまった。
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