第697話:コーズル・ヴォム~避暑地~
「暑いので涼しいところに行こうと言ったのは誰でしたか?」
「僕だな」
今の季節は夏季、近づく太陽に焼かれて池が干上がる程の日々に辟易した彼が避暑地に行こうと言い出した。
「場所の選定をしたのは?」
「僕だな」
私は彼が楽しそうに涼しい場所を調べているのを横目に見ていたが、こんなことになるとは思っていなかったので特に注意していなかった。
「で、特に確認もせずにのこのこついてきたのは」
「それは君だ、ずいぶんと間抜けな話だな」
ハハハと馬鹿にするように笑う、これは冗談でも何でもない、心から笑っている。
付き合いが長いからわかる。
それにしても本当に迂闊だった、ワープゲートを潜るまで一切どこへ行くのかを確認してなかった。
まさか、氷点下の土地へ来ることになるとは……
「今はどつく気力も無いので生きていれば後にしますが、何か今のうちに解いておきたい誤解等はありますか」
「誤解? 何をいまさら言うことがあると? 僕程正直に誤解されないよう生きている者はそういない」
「そうでしょうね、その態度全部を好意の裏返しと誤認するには無理がありますからね」
「というか、さすがに今回は君の自己責任だろう。どこに行くとも言ってない僕も悪いかとは少しは思うが、誘った覚えもないのについてきた君が悪い。思い当たる誤解といえばそれぐらいか」
「誤解してませんよ、誤解はしてませんけど怒りをぶつける先があなたしかいないという、そういう状況なだけです」
「そうか、誤解は無かったか。それは良かった」
「ていうかあなた、なんでそうも涼しい顔をしていられるんですか……」
私はこんなに凍えているというのに、いったいどういうからくりか。
「涼しいからだが……」
「寒いでしょうが」
「うーむ、体感温度の差か……」
「もしかしてあなた、人間じゃないんです……?」
「何を言う、れっきとした人間だぞ。ただ体の8割が機械でできているだけだ。この時期は放熱がつらくてな……」
少し誤解があったかもしれない……
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