第696話:ズーニア・ファニ~分業作家~
「さて、この現象をどう考える?」
同じ顔を5つ神妙にして車座になる。
「先ほど聞いたこの世界の仕組みから考えるに、5度死んだのでは?」
一人の私が一番短絡的な発想で案を出す。
「5度死ねる体質であったことに心当たりはない、並行世界で同時に死んだのでは?」
即座に別の私が否定する。
「かの世界に並行世界がないことは確認しただろう、多重人格者がこうして人格ごとに肉体を得た例はあるらしいが」
「多重人格だなんて自覚したことはなかったはずだ」
次々に案は出て、次々と否定が繰り返される。
「ならばやはり、あの仮説じゃないか」
本当は最初に頭に浮かんだのだが、さすがに無いだろうと言わなかったあの仮説。
諦めたような顔をしている発言者と、全員が納得しているような微妙な表情でいるのを見て私もそれが真実で、全員が同じ発想をしたのだと察する。
生前の私は作家だった。
無限にあふれ出るアイデアと、無限の創作意欲で他の追随を許さない程の出版速度を誇っていたのだが、そのせいかネット上では「ズーニアは5人いる」とまで言われていた。
「だから言って、本当に5人になるとは……」
「まてよ」
「なんだ? 気が付いたことがあるならさっさと言ってくれ」
「流石に読者に5人いるなんて噂をされていたとしても、実際に死んだ私は一人だけだ」
「つまり?」
別の一人が尋ね、別の一人が答える。
「1人を除いて、噂にいるとされた架空の4人が死んでここにいるんじゃないかってことだろ?」
「ああ、どうりで全員が同じ私にしては少しずつ発想に差があると思った」
「つまり、本物は一人だけということか……」
「そうなるな」
気まずい空気が流れる。
「誰が本物なんだ……」
「…………」
「…………」
「一応聞くけど自分が本物だと思ってるやつはいる?」
私が一応聞いてみる。
手は上がらなかった、私も上げていない。
「……小説書こうか」
「そうだな……」
とまぁ、こんなことがあって、結局誰が本物とかどうでもよくなった私たちは本当に5人いるが1人名義でデビューした。
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