第689話:ロウリー・ロンルⅡ~温泉フィーバー~

 数多くの穴を掘ってきた。

 深い穴、長い穴、浅い穴、ドリルで掘った穴、死が漏れ出してきた穴、あとは……


 温泉が湧いてきた穴。


「だいぶ暑くなってきたな……」

 地中は熱がこもる。

 普段はひんやりして涼しいのだが、この辺りは地下に溶岩でも這っているらしく、掘れば掘るほど温度が上がっていくのを感じる。

 近くに火山はなかったはずだから、そのうち噴火するかもな……

 掘りすぎると溶岩を掘り当ててしまうかもしれない、慎重に行こう。


 ううん、この辺りでそろそろヤバくなってきたか?

 湿度も高くなってきたし、そろそろ死ぬかもしれない。

 これ以上は無理だな、ときた穴を引き返そうとするが、天井がミシミシと音を立て始めた。

 落盤かと身構え走って戻ろうとするが、間に合わない。

 天井のヒビは目に見える程になり、液体が滲み出す。

「あっつぁ!」

 液体がかかった、熱いが溶岩ではない、これは熱湯、地下水が溶岩で温められている奴だ。

 ただ、強い圧力がかかった環境下で加熱されているからヤバい熱さだ。

 直接浴びればやけどでは済まないし、装備の上から浴びてもひどいやけどになる。

 圧力から解放されて爆発的に体積を増やして、まだ温度が低い空気を押し出してくれるおかげでまだ直接は触れずに逃げられている。

 逃げられているというより吹き飛ばされているのだが。


 なんとか地上まで吹き飛ばされて、長い穴を通ってきた間に少し冷えていい感じになった熱湯が周りにあふれる。

 死ぬかと思ったが、これは風呂にちょうどいい温度だと、しばらく浸かって疲れを癒して帰ることにした。


 後日、そのあたりには温泉旅館街ができていたのはさすがに早すぎるだろと思わなくもなかったが、少しだけ「その温泉を掘り当てたのは俺だぞ」と言いに行きたい気分にもなった。

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