第690話:ヒュロー・ガザ~夏の日差し~

 先日の雨でボコボコに歪んだ地面に水が溜まって風景が揺らめいている、どこかで喧しく子孫も残せないというのにグシャグシャと虫が鳴いている、新築のビルのガラスには熱気でひびが入った、どこかで焦げる匂いがする。

 タンパク質で構成された体は外に出れば途端に痛みを訴え、室内で冷房を掛けた部屋に籠るしかなく、無機物で作られた体も歪み、ひび割れるので室内に籠る、そんな気候だ。

 外を出歩いているのは温度の概念を持たない者とか、そういう者だけだ。

 本当に冗談みたいな気候の中、俺はと言えば屋外の、日光で白くなったベンチに座って耐えていた。


 どうやら日光というのは強いと音がするらしい、いや、これは強い熱線が地面を焼く音か。

 脚の関節部が雨で壊れて、このベンチで動けなくなって、殆どの人は出歩けないから助けも呼べない。

 やることと言えば夏を観察することぐらいで、案外退屈しないものだ。

 空は光学機器が焼かれるので見上げることができず、世界は概ね白くなる。

 日陰の黒は日向の白との対比でより濃く、深くなる。

 今度日陰から観察してみるのもいいかもしれない。

 日向が白くて何も見えないだろうとは思うが、それもこの危機を脱してからの話だ。

 耐熱性の高い体をしているとはいえ、長い日中ずっとこの日に晒されていては様々な不備が出る。

 流石にまずいと、誰かが助けに出られることをどこかに祈って、携帯端末デバイスを取り出すも、

「壊れてる……」

 夜になれば少しぐらい人も出歩くだろうと、もう少し耐えることにするか……

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