第663話:スベヤ+マーネィ〜白紙の本〜
大通りの片隅、露天商が珍しいものを売っていた。
分厚い本でそれ自体はあまり珍しくはないが、タイトルには「白紙の本」と書いてある。
横には立ち読み禁止である旨と結構な値段の記された札。
小さなテーブルの上にはその「白紙の本」とやらが一冊だけで、他のものは売っていない。
つまり、「白紙の本」と言うタイトルの本をそれだけの情報で買うしかないわけで、しかも値段はけっこう高い。
買って開くまでどんな中身かもわからないのにタイトルが「白紙の本」となれば、ほとんどの人が買うのを躊躇うだろう。
「というわけで、「白紙の本」を買ったんだ」
「馬鹿なのかお前は」
自慢げに買ってきたばかりの白紙の本を見せたらひどい言われ方をした。
「それで、どんな内容だったんだ、まさか本当に白紙なわけじゃないだろ?」
「まだ開いてないんだ、僕は暫く開くつもりはないんだけど、君はどんな本だと思う?」
「はぁ? 買った本をどうして開かない、読まなきゃただのオブジェだろ」
「暫くは中身を想像して楽しもうかなって思ってさ、想像した内容を写しとれば自分も本を出せるんじゃないかとも思ってる」
「正直に言えば頭おかしいんじゃねーかなって思ったけどさ、まぁ今はわかるという体で話に乗ってやる」
「どうも」
「なにが書いてあるかってのは全く想像がつかんが、俺の想像だときっと本当に白紙だな、しかしそれは偽装だ」
「というと?」
「あるだろ? あれ、見えないインクとかそういうさ」
「ああ、一見白紙に見えるけど特殊な仕掛けで読めるようになる本か、それはなかなか面白そうだ」
「だろ? 今度俺もそういう本作ってみようかね、書くことねーけど」
その後も色々な想像を膨らませていろいろな話をした。
「そろそろ読んでみるか……」
買ってから暫くほったらかしにされていた白紙の本を手にとって開いてみることにした。
謎の緊張感を伴って開かれたその本は、最初のページから本当に白紙で、様々な方法を試して書いてあるであろうことを明かそうとしたが本当に白紙であるらしいことしかわからなかった。
「まぁ、白紙の本を高値で買ったという経験を買ったと思えばいいか」
そういう感覚でないとこんなものは買えないと思う。
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