第605話:アコ=マグラ~謎マナー~

「マナー?」

「そう、ここのマナーよ」

 入った店で、突然に注意を受けた。

「その料理を椅子に座って食べるのはマナー違反だよ」

 なんだそれは。

「ルールですか?」

「マナーだよ」

「なるほど」

 ルールでないと言うのであれば必ずしも聞く必要はないだろう。

 何より座れないと疲れる。

 ので、座って食べるのを再開することにした。

「話聞いてたかい?」

 皿を取られた。

「立って食べろって言ってんの」

「なぜだ?それがマナーだというのは理解したが、私にはそのマナーとやらを守る意思も理由もない」

 皿を取り返す。

「立って食べるのがマナーだというのであれば、それを守らせるだけの論理的根拠を提示してほしいものだ」

 マナーというのは時に理由も失われてしまって形骸化している場合がある。

 もしくは何者かの捏造か。

「理由を提示してみてくれ。それにさえ納得すればそれに倣って立って食べることにしよう。さぁ、どうかね?」

 どうせ立って食べたほうが美味い程度が関の山だろう。

「そいつはね、座って食べると臭いが強く周りにまき散らされるんだよ。食べている本人は気付かないんだけどさ」

「なんと」

 周りを見ると、確かにほとんどの客がこちらを見て鼻をつまんだり、顔をしかめたりしている。

「なるほど、それであれば仕方がない。立って食べることにしよう」

「わかりゃーいいんだわかりゃーよ」

 そう言って、突っかかってきた彼女は自分の席へ戻っていった。

 驚くことに、彼女は店員でなく客だったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る