第603話:ササクラ・タクヤ~丈夫な不死~

 ようし、情報もある程度集まったことだし、テロン街へ行ってみようか。

 薬屋の座標も大体わかったし、迷うことは無いだろう。

 先日少し話をした彼女も誘ったけど、結局ついては来なかった。

 まぁ、今回行く薬屋の薬は高いしな。

 普通の人の経済感覚だと少し手を出しづらいものだと聞く。

 さて、ナビも設定したし行ってみようか。


 ......テロン街に来たのは始めてだったけど、頭がおかしくなりそうな街だ。

 どこに視線を向けても普通の、立体的な縦穴の街なのだけど、繋がりがおかしすぎる。

 ひとつ歩いて、ひとつ戻ると別の場所。

 建物に入って、出ると別の場所、もう一度入ると別の建物。

 ナビも指す道がコロコロ変わるしミスったら死ぬんじゃないかってぐらい疲れた。

 疲れたけど、なんとか目的地にたどり着いた。

「ここで不死の秘薬を扱ってると聞いたんですけど」

「不死ぃ?そんなものありやぁしないよ」

 店主は17ぐらいの見た目の少女、種族が人間であればの話だけど。

 噂ではこのお店は400年ほど前から存在していて、その間店主は変わったことが無いという話だ。

 つまり、この少女が400年前からずっとここでこの店をやっているというわけだ。

「失礼ですが、あなたは今何歳ですか?」

「本当に失礼な奴だねあんたは、その命綱引ったくって外に放り出してもいいんだよ?」

 手に持ったままだった携帯端末デバイスを指して言われる。

「いえ、そういう話ではなくてですね。噂ではあなたは400年もこの店に居るということでしたけど、どうやってその姿のままで400年も生きてきたのですか?ということが聞きたかったのです、あなたは不死なのでは無いですか?」

「私はねぇ、不死じゃあ無いのよ。怪我をすれば自然と治るのにも時間がかかるし、刺されれば死ぬし、ただ長く生きられるだけのただの人間なのよ」

 そうだ、僕がここに求めてきたのはそれなんだ。

「僕が求めているのはそれなんです。その長く生き続ける方法を知りたくて、それがここで扱っている薬ならば売っていただきたいのです」

「なるほどねぇ、売ってやれないことも無いけども、不老薬は作るのに少しかかるからねぇ、また5日後ぐらいに来てちょうだい」

 また、ここまで来るのか、とは思ったけども、不老の秘薬が手に入るのだったら安い苦労だ。


 指定された日、苦労して薬屋までやって来ると、弟子だという若者に対応された。

「君も何百歳とかなのかい?」

「いえ、僕は見た目通りですよ。はいこれ、注文された不老薬です」

 そう言って渡されたのは市販の頭痛薬。

「君、これ……」

「はい、不老の薬ですよ。代金はこんなもので」

 そう言って提示されたのは頭痛薬の定価の1000倍ほどの値段。

 払えない額ではないが、さすがに頭痛薬に払う額ではない。

「ふざけているようなら帰らせてもらう!」

 この薬屋には騙されてしまったようだ。

 僕は憤りそのまま外へ出て、この薬屋をナビの行き先一覧から削除した。

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