第601話:カーバラ・ワクーイ~笑顔の裏側~

 この街は歪だ。

 この世界でいろいろな街を転々としているが、この街はとても歪だ。

 この街の人間は全員が全員、笑顔で街を歩いている。

 それが、僕にとってはたまらなく気持ちが悪い。

 それは、僕のせいじゃない。

 僕の感性が腐っているからじゃあない。

 おかしいのはこの街だ。


 僕にはわかるさ、僕には人の感情が見えるからね。

 彼らの誰一人として笑ってはいないんだ、どちらかといえば悲しみに満ちている人のほうが多い。

 しかしだ、彼らは誰一人として、自分以外に悲しみを感じている人はいないと思っている。

 そりゃあそうだろうさ、この街では誰も悲しみを顔に出してはいないんだから。

 だから僕はこの街を歪だと表現する。

 普通の人はこの街がとても幸せそうに見えるだろうけど、僕にはこの世界で最も悲しみが満ちている街に見える。


 この街の人達はどうしてこんな悲しみに満ちていて尚、誰もが笑顔で街を歩いているんだろうか。

 僕にはそれがわからない。

 感情が見えると言っても、何を考えてその感情を持っているのかが僕にはわからないんだ。

 僕はしばらくこの街で暮らそうと思っている。

 あまりいい趣味とは言えないけど、僕は他人の感情の移り変わりを見るのが好きなんだ。

 だから、この歪な街で、人々がなぜ悲しみの中で笑顔を絶やさないのかを知るために、僕はしばらくこの街で暮らそうと思う。

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