第592話:ラグ~群れの中の個人~
「こんなもんか」
先日の狩りで手に入れた肉を一通りすべて干し終え、一息つく。
さて、今日の狩り集団はもう出発してしまったし、武器の整備でもするか。
部屋の中では狭いので、槍を持って小屋の外へ出る。
すると、見たことのない若者が一人うろついていた。
行商人には見えないし、新しく群れに加わるつもりで来た若者だろうか。
時たまそういう若者が来るものだが、たいていは群れに加わることができずに去る。
理由は、彼を観察していればわかるだろう。
街に残っている少ない個人に声をかけては無視されている。
当然だ、この群れの人間が自分の利益なくして話をするわけがない。
そういう個人の集まりである群れだ。
それぞれの都合で集まっている方が都合がいいと判断しての群れだから、空気の読めない新人を受け入れるような奴がいるわけがない。
用があれば話したりはするが、群れに長くいる同士でもお互いに敵になると不利なのでうまく探りながらの交流になるというのに、いきなり自己の要求をぶつけてくるような奴は排斥されて群れにいるのは難しくなる。
「ちょっと話聞かせてもらってもいいですか?」
ついには俺のところまで来た、当然無視をしたいところなのだが観察していたため目が合ってしまった。
目が合うと良くない、話を断れなくなる。
「手短にな、なんだ?」
「僕この群れに加わりたいんですけど、どうしたらいいですかね?」
「さぁな、俺は知らん。忙しいんだ、話しかけるな」
さっさと追い払いたい。
「リーダーみたいな人がいつ戻ってくるかだけでも教えてもらえたらいいんですけど」
「そんな奴はいない」
会話を成立させてしまった以上、答えなくても食い下がられそうだから適当にあきらめるように仕向ける。
実際にいないからな。
群れに入るのにルールはないが、誰かの承認が必要ということもない。
それを理解させてやれば自主的に去るか適応するかするだろうか、追い払うのが今の利か。
適応されてもことあるごとにくっついて来そうだな、賭けだな、これは賭けだ。
「群れに入りたいのなら入ればいい、ルールはないからな。ただ都合がいいから集まっているだけだ」
「そうなんですか?」
「俺からはこれ以上言うことはない、あとは好きにしろ」
「でもやっぱりよくわからないんで、いろいろと教えてもらいたいんですけど」
「やっぱりそうなるか」
目の前の若者に槍を打つ。
賭けは負けだ、これ以上こいつと関わっていると俺の評判が良くなくなる。
彼らの間での情報の共有はなくてもこいつが繋ぐだろう、そうなる前に始末をつけないとな。
幸い、こいつが俺に話しかける前に散々他のやつに話しかけていたおかげで俺がこいつを殺しても誰も咎めない。
周りを見ても「まあ、そうなるよな」という顔で遠巻きに目線を向けるぐらいのやつばかりだ。
さて、死体を埋める穴を掘らないとな。
まったく、面倒な話だ。
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