第591話:オルディカ・ラーラス~個人の群れ~

 砂漠を行く一団がある。

 彼らの外見に共通点はなく、統率がとられた集団でもない。

 集団のうちの一人が笛を吹いた、指し示す先には砂クジラ(クジラ:泳ぐ巨大生物を指す俗称、必ずしも地球のクジラに類似する姿を持つとは限らない)が一頭砂から顔を出すところだった。

 砂が巻き上げられ、視界が著しく悪くなる。

 その中を彼らはそれぞれ独自の声をあげながら、砂煙を抜けて砂クジラにとびかかる。

 連携はしない、お互いがお互いの動きを見て自分の邪魔にならないように牽制しあいながら砂クジラを集団で弱らせていき、ついには仕留めた。

 彼らは【オルディカ・ラーラス個人の群れ】と呼ばれている狩人集団であり、誰かが統率を取ったり助け合いなどをすることもない、ただただ集まっていた方が都合が良いという理由で行動を共にしているだけの集団である。


 しとめた砂クジラをそれぞれが自身の活躍に見合う量として発見した者から順に自分の取り分を切り出していく。

 死んだ砂クジラは種類にもよるが砂に沈んでいくためそれぞれの作業を邪魔したりはしない。

 一通り全員が自身の取り分を取り終え、バラバラにその場を離れていく。

 離れるタイミングは別々でも向かう先は同じ、彼らが拠点としているオアシスの街だ。

 今回狩りに出なかった者達や、行商を生業にしている者が滞在している。

 それぞれがそれぞれの小屋を持ち、それぞれがそれぞれでの生活をしている。

 体を鍛えている者もいるし、武器の手入れをしている者もいる、肉を加工している者もいるが、誰もお互いには干渉しない。

 例外的に行商人とは交流をしている者もいるが、群れの中で交流している同士はいない。

 彼らはあくまで個人であり、狩りに都合が良いから集まっているだけなのだ。

 お互いに不干渉であるというのも誰かが決めたルールではなく、それぞれがそれぞれに都合が良いように動いている限り、それぞれの認識の上で不干渉である方が都合が良いという認識を持った者が集まっているというだけの話である。

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