第578話:チョグルス=ポコロア~価値観の他人依存~

「やぁ、ここはフグロアの街だよ」

 街に入るなり、そう声をかけられた。

 なんとなく、聞き覚えがある言い回しだ。

 少し歩いて振り向いてみても、同じ場所に立ったまま街の入り口を見ている。

 あれは彼の仕事なのか……?

 それ以外にもこの街はどこか異様な雰囲気がある。


 何をするにも他人に確認を取る。

「今から水を注ごうと思うんだけどどうだい?」

「いいじゃないか!」「いいと思うよ」「僕も水を注ごうかな」

 とこんな調子で、その程度のこと確認を取る必要も同意を得る必要もないだろうと思うようなことも周りに聞いたりする。

 大抵はその場にいる全員がもろ手を挙げて賛同するのだけど、反対意見が出た場合どうなるかも少し気になる。


「僕は今日のお昼にフータンを食べようと思うけど、どう思う?」

「いいんじゃないか?」「いい選択だね」「僕もフータンを食べよう」

「いや、その選択はどうだろうか」

「?」「?」「?」「?」

 僕は彼の決定に異を唱えてみた。

「おや失礼、僕の判断では今日、フータンはあまり良くないんじゃないかなと思うんだが」

「どういう意味だ」「それなりに理由があるんだろうな」「説明しろ」「他を選んで失敗だったら君が責任を取ってくれるんだろうな」

 ああ、そういうことか。

「もちろん、理由ならあるとも。店主、今日のフータンの出来には自信がないんじゃないかい?」

「ん、そうだな。今日は仕入れた材料が良く無くてなぁ、フータンは注文しないでくれると助かる」

「ほらな」

「そういうことだったのか」「よく見ているね」「忠告ありがとう」「君の支払いは僕が持とう」

「それはいい考えだ」「いいね」「そうしよう」

「いやいや、それには及ばない」

「なんだと!」「せっかくの好意を!」「そうだぞ!」

 ああ、否定するとこうなんだったか。

「別に礼がいらないと言っているわけじゃないんだ、この街の入り口にいた男性の話を聞かせてほしいんだ」

「なんだ、そんな話か」「彼はああいう仕事をしているんだ」「この街に初めて入る人に街の名前を告げる仕事さ」

「へぇ、なんでそんな仕事があるんだい?」

「さぁ僕は知らないね」「僕もだ」「知らないなぁ」「だよね?」

「そうかい、それだけ聞ければ十分さ」


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