第562話:ナルメニア=ロールⅢ~賭け事で神に祈ること~

 ここはカジノだ。

 賭け事をする場所であって、遊ぶ場所でもある。

 あたしはよく遊びに来ているようなものだけど、ここに稼ぎに来ているような人もよく見る。

 だけども、そういう人は大体負ける。

 というより、カジノっていうのは基本的にそういう人が負けるようにできている。

 よく言うのは、ギャンブルは欲を出したやつから死んでいく世界だということ。

 実際、欲を出すというのは欲が制御できなくなっている状態を言う。

 ここまで来たら稼がねばならない、生活費を削っても最終的にプラスになれば良いという考え方。

 そんな考え方では負けを重ねるだけ、もしくはせっかく得たプラスを捨てるだけというものだ。

 そういう人は最後に決まってもので、ダイスの神に愛されているあたしが言うのもなんだけど、ギャンブルの神は祈ったところで人を助けたりしない。

 彼らは、気に入った人間にしか微笑まないし、決まってそれは顔のいい者か、ピエロだ。

 顔のいいとかそういうのは、顔の作りの話ではなく表情の話。

 楽しんでいる者、余裕のある者、もしくは神の好みの造形をしている者。

 ギャンブルの神が力を貸すのはそういう者たちだ。

 だから負けが込んで情けなく顔を歪めている者や、余裕をなくしている者にはギャンブルの神は微笑まない。

 そういった者でもたまに大勝することがあるが一回こっきり、欲を出して額を大きく賭けて大負けする身分不相応な幸運で身を滅ぼす、神に踊らされるピエロだ。


 なんでそういう人たちのことがよくわかるかって言えば、あたしもかつては、前世ではそういうギャンブルの神に醜く縋った上で見放されて死んだ者だからだ。

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