第545話:トリオン・ロヴール~雪の中の焚火~
「ん、雪か」
森の中で焚火をしていると、ちらちらと雪が降ってきた。
あまり気温が低いとは思わなかったが、思ったより冷えているのかもしれないな。
今から冷えるのかと思い焚火に薪をくべ、少しだけ強くする。
パチパチと燃える火と、それを避けるようにして舞う雪を見ながらこの雪は積もるだろうか、それとも少し降って終わりだろうか、なんてことを考えていたらだんだん気温が下がってきて、それに伴い雪も強くなって来た。
持ってきていた傘を被って、さらに火を強くする。
この程度の雪ならまだ大丈夫だろう。
雪の中から一人の男が現れた。
「僕も焚火に当たっていっていいですか」とのことだ。
実はそろそろテントに戻ろうかと思っていたのだけど、寒さを紛らわすのに火にあたりながらの会話もいいだろうと、承諾した。
彼は持っていた簡易の椅子を出して俺の対面に座った。
「いやぁ、すごい雪ですね」雪の中、薪の爆ぜる音だけでは寂しいのでこちらから話しかける。
「本当に、焚火が見えて助かりましたよ。キャンプですか?」
「ええ、一人でキャンプするのが好きで、雪が降るとは思ってなかったんですけどね」
「ああ、それは災難ですね。せっかくの一人キャンプにお邪魔しちゃって」
「いいんですよ、寒いと他人が恋しくなりますし、ちょうどよかったです。ところでそちらは?こんな森の中で何を」
「僕は歩いて旅をしていてね、その途中で思ったよりも雪が強くなって困ってたんだ」
「こんな世界で歩いて旅をですか」へぇ、ずいぶんな変わり者で。
「僕はちょっと事情があってあんまり一つの場所にとどまったり、乗り物に乗ったりができなくてね。まぁ、こういう生活もいいものだよ」
まぁこの世界は広いし複雑だ。
そういう人もいるだろうな、深くは追及するまい。
「さて、そろそろ行きますよ」
ふぁ、と俺が欠伸をするのを見て、彼は立ち上がった。
「そうですか、お気をつけて」
立ち去る彼を見送って、雪がこのまま降り続けるようならテントも危ういかと、雪対策を講じながら寝る用意をしていると、ぱたりと雪が止んだ。
これはあの旅人もラッキーだったなぁと思いながら、テントに潜り込んで寝床に入った。
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