第481話:ソン・カリウ~実体通貨~

 ん?

 出先の町で昼食を食べ、支払いをしようとしたときに表示に違和感があった。

 この世界では珍しい、レジカウンター型の清算機の画面には二つの数字が示されていた。

 10パソ、これは昼食の代金だ。

 そしてもう一つ、その下に書かれた数字、300ノル。

 ノルという単位は初めて聞いたな。

 一体何の値だろう、いつものように携帯端末をプレートに押し当てて10パソ払って店を出る。

 料理屋で表示されたところを見ると、食事に含まれる熱量か、それとも店のポイントか、よく知らないが健康指標値というものがあるという話も聞いたことがある。

 それらの単位がノルなのかもしれないと思って調べてみたがどれも違うらしい。

 どうしても気になってしまって、一度さっきの店に戻ることにした。


「ちょっとお聞きしたいんですけど、ノルってなんですか?」

 店員に尋ねたら無言で壁に貼ってあるポスターを指さされた。

『実体通貨ノル、下記の場所でパソとやり取りできます!』と書かれている。

 実体通貨……?よくわからない単語だな。

 とにかくポスターに書いてある場所へ行けばわかるようだ、軽く会釈をして店を出る。


「おお、実体通貨ノルに興味がおありですか!」

 地図の場所にはちょっとした倉庫と、それに併設された小屋があり、中に入ってノルについて知りたいと聞くと、やたらと声のでかいおっさんが喜々として説明してくれた。

「まず実体通貨というのはですね、その名の通り実体がある通貨のことを言うんですよ!」

「実態がある通貨、というのがわからないのだが」

「ああ、もしかして電子通貨が一般的だった世界の生まれですか?それとも通貨制度がそもそもない世界の生まれ?数字としてのお金のやり取りしか経験がない方ですかな?」

「金なんて数字でのやり取りしかないだろう?」

「いやいや、世界が変われば様々な通貨制度がありましてねぇ、たとえばこの世界の主なパソ、これはデータ通貨といいまして、まぁデータ上に存在する数字でどれだけの資産があるかを表しているわけです。この数値が移動することで仮想の資産が移動しているということですね」

「それはなんとなくわかる」

「はいはい、では次に実体通貨ですがこれは資産を表す数字を物に乗せた物です」

「それはどういう……?」

「これを見てください」

 そういって渡されたものは、小さな円形の金属片。表面に数字が刻印されている。

「これがノルの実体通貨です、これ一枚が10ノルですね」

「これも金なのか?」

「ええ、ノルでの支払いを受け付けている店であれば使用できます。パソと交換できるのはここだけですが」

「なるほど……」

 さっきの店で表示されていた300ノルというのはこの金属片、10ノルが30枚で支払うこともできるという表示だったわけか。

「パソと交換できるという話だったが、10ノルで何パソなんだ?」

 10パソの料理が300ノルだったことから考えると0.3パソぐらいか?

「そうですね、今のレートですと10ノルで30パソぐらいですね」

「!? どういうことだ、さっき入った店では10パソの物が300ノルだったぞ?レートおかしいんじゃないのか?」

「店によってはパソを高く置いている店もあれば、ノルを高く置いている店もあるんですよ、それはまぁ店の値段設定ですから。レートは常に変動していますので値段設定をした時のレートがそういうものだったということでしょうね、案外確認して値段変えるって人少ないみたいで」

「なるほどそういうものなのか……」

「それで、ノルとパソを交換していかれます? この辺りの店でならどこでもノルを使えると思いますが」

「そうだな、1000ノル交換しよう。となるとその金属片を100枚か……?」

「いえいえ、これは10ノル貨幣なので、1000ノル貨幣を1枚ですね。それとも100ノル貨幣10枚にしておきます?こちらの方が使い勝手がいいですよ」

「種類があるのか……」

「値段設定によってはちょうど出せないこともあるのでお釣りを細かいので貰わないといけませんからねぇ」

「不便じゃないか、これ?」

「不便でも実体がないと安心しないという人もいましてねぇ。まぁ私はこれで結構設けているのでいいんですが」

「そういうものか……」

 1000ノル貨幣を1枚持って適当な服を買ったら489ノルで買え、パソで買うよりも得に買えたが、サービスで貰った貨幣袋の中が100ノル5枚、10ノル1枚、1ノルが1枚と、じゃらじゃら邪魔くさいことになってしまった。

 実体通貨、なんともじれったい……

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