第480話:ウルファ・ガラ~大道芸人~

 てけてけてんてんてけてんてん


 小気味いい音が聞こえてくる。

 久しく聞いていなかったが、これは太鼓をたたく音だ。

 どこから聞こえてくるのかと、音を視線で辿ってみると、大通りの端の方。

 端の方とは言っても影にはならず、なかなかに目立つ場所だ。

 叩いているのは小動物……?いや、そういう姿の種族か。この辺では見かけない種族だな。

 それと、隣に立っているのは道化の恰好をした、芸人とでもいうのだろうか、厚い化粧でどんな顔かはわからないが、ありふれた種族の姿をしている。

 なるほど、いわゆる大道芸人というやつか。

 こういった人通りの多い大通りで芸をして良ければいくらかお金をくれと、そういう奴だな。

 どれどれ、興味があるしちょっと見て行こう。


 しばらくは小動物の奴が太鼓をたたいて人を集めているだけで、道化の方はカバンをいじって道具を出したりしまったりを繰り返していた。

 準備中なのか、人が集まるのを待っているのか、既に振り込みコードを表示したパネルは置いてあるのでお金をやることはできるが、どうせなら芸を見てから入金したい。


 てけてけてんてんてけてんてん


 暫く見ていると十分人が集まったと判断したのか、ようやく道化の方が正面を向いてお辞儀をした。

 どうやら道化の方は言葉を発しない設定のようだ。

 無言でカバンの中から何かを取り出す。棒状の、なんだ、棒がスススススとカバンの中から出てくる。

 出てくる出てくる止まることなく一本の棒がススススと出てくる。

 道化は慌てたようなジェスチャーをしながらどんどん引き出していく。

 その滑稽な姿に周囲は少し笑いが生まれる、俺も笑ってしまった。

 見上げる程に長くなった棒は突然途切れ、道化は端を掴み損ねて真上に放り投げてしまった。

 飛んで行った棒は落ちてくることなく、見えなくなるまでまっすぐに飛んで行ってしまい、道化は見上げるジェスチャーから、肩をすくめて見せた。

 そうして、気を取り直したかのように次の道具をカバンから取り出そうとしてまた滑稽に失敗したり、出した道具で手品のようなものを見せたりして大いに場を盛り上げた。

 その間も小動物は太鼓をたたく。

 一通り道具と芸を出し終えたのか、カバンをひっくり返して中身はもう空であるということを示し、出した道具を順番に片付けて、なんと最後には自分がカバンの中に入ろうとした。

 ズズズとカバンに入り込み、あとは胸から上だけというところで上から何か落ちてきた。

 そう、最初に飛んでいった棒だ。

 落ちてきた棒は道化の頭にあたり、ハンマーに叩かれる杭の要領で道化はカバンに押し込まれて行き、最後には完全にカバンに消えた。

 棒もスっと抵抗なくカバンに吸い込まれて行き、場にはカバンと小動物と太鼓だけが残った。

 小動物は太鼓をカバンにしまった後、カバンを閉めてお辞儀をして振り込みコードの看板を掲げていた。


 この場にいる何人かは気づいたかはわからないが、俺は気づいた。

 この小動物の姿をした芸人がさっきの道化人形を動かしてたんじゃないのか?と。

 根拠として、太鼓を叩いていただけなのにやけに真剣な表情をしていたような気がしたからだ。

 そうだとしたら、最初に考えていた以上の額を出したくなってしまった。

 100パソのおひねり予定が500パソ出すことにした。

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