第482話:カシファン=マナーシアⅥ~最大多数の最大幸福論~
「ねぇ、カシファン。最大多数の最大幸福論って知ってる?」
「もちろん、机上の空論の代表みたいなものだもの」
突然この類の話を持ち掛けられたとき、場所はどこだろうと議論が始まる。
今回の場所は昼間の公園の一角、人も多い。
「机上の空論ね、もしどうにかして全ての人を幸せにする必要があるとしたら、どうする?」
「私にできることは限られてるからそんなことは不可能なのだけど?」
「そこはほら、全てをどうにでもできる立場なのよ。例えば、神様になったとか」
「うーん、そうだなぁ」
全ての人を幸福にするというのは、いろんな創作内で語られている題材だ。
様々な「これなら確かに全員幸せなのではないか」というシステムが考えられているのだが、大抵どこかに穴があり、歪み、崩壊するというのが定番の話だ。
物語的には仕方のないことなのかもしれないけど、実際考えてみたら全部幸せにしてみんな幸せということもできるのではないだろうか。
「ちょっと待ってね、今真剣に考えてるから」
「適当になんか言ってみなよ」
ああ、これは話しかけてきた時点で考えてあるな、さっさと意見を出して向こうの喋るターンにしよう。
「例えば、全員脳の快楽物質の分泌量を上げるとか」
「うわぁ」
「そんなドン引きしないでよ」
「いやいや、全員薬漬けにしたら全員幸せだよね?なんて引くわー。そういうこと実行して滅びた世界は実際にあるってのに安直だわー」
「うう、そういうあんたはどうなの、どうせ何か考えてあるんでしょう?」
「そりゃああるよ、無いのにこんな話題振るわけないでしょ」
「そのあるっていう案を聞かせろって言ってるの」
「そうね、すべての人間の脳を電子データ化して仮想空間で生活させるの、そうして全員各々が望む夢を見るのさ。とても幸せそうじゃないか?」
「私そういう映画見たことあるよ」
「その映画では反乱分子を始末できずに仮想の世界は崩壊させられていたでしょう? 私の作る仮想の世界は反乱分子を作らせない仕掛けがたくさんあるのよ」
「え、ちょっと待って?今作るって言った?その仮想世界作っちゃうの?」
「作れるわけないでしょ、仮の話よ、仮の」
「そっか、まぁそうね。仮想の話だもんね」
「でも私は幸せになりたい」
「今は幸せじゃないの?」
「今は何が幸せなのかをずっと考えてる」
それでこの話題か……。
「他人を含めた最大幸福なんて考えてるうちは自分の幸せも紛れて見つからないんじゃない?」
「うーん、そうかなぁ」
「そうでしょ」
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