第477話:クロッケ・ラブズ~顔の無い柱~
「この柱、おかしくない?」
「どうおかしいですかね」
ここは博物館、あらゆる世界の人に向けて過去と未来と現在を展示していると評される施設だ。
僕はそこでキュレーターをしていて、少女の姿をしたお客様に質問を投げかけられたところだ。
「顔が無いわ」
この柱は展示ではない、厳密に言えば建築の展示としても良いが、建物の構造上存在する柱だ。
「一般的な柱には顔がないものだと、確かにテラーマ、ログダ、ベーニ等のいくつかの世界では柱に顔の彫像を彫る文化を持っていると聞きますが、あまり一般的であありませんね」
「それはそうでしょう、全ての柱に顔を掘るなんてありえないわ。私は『顔が掘ってない』と言っているのではなく、『顔がない』と言っているのよ」
「あちらで詳しくお話を聞かせてもらってもよいでしょうか」
柱から見える位置にある、小さなテーブルと椅子のセット。ドリンクサーバーも併設されている、フリーの休憩所に誘う。
これは少し気になる案件だ、キュレーターとしてではなく個人として、博物に携わる者としての興味だ。
「いいわ、少し話をしましょう。質問に答えてもらうためにはまず、お互いの前提を整えなければならない、でしょう?」
「ええ、『立ち話は話ではない』とも言うようにね」
「その言葉は私の世界にはなかったわ」
「そうでしたか」
「さて、ではもう一度詳しく話を聞かせてもらってもよいでしょうか、柱に顔が無いとは」
「柱というモノにはね、顔が宿るものなの。これはどこの世界でも共通で、この世界でもたくさんの柱に顔があるのを見てきたわ」
「つまり、柱も生き物だと?」
「生き物という表現は適切ではないわね、あくまで柱は建造物。顔が宿りこそそすれ、柱自体が生きているということはないわ」
「あ、わかりましたよ。宿り神みたいなものですね。それなら知識として知っています」
モノに宿る神、神とは言うが神性は薄く、妖怪とされることも多いものですね。
「ええ、概ねそんな感じよ」
「うーん、そうですねぇ。僕の感覚系ではそういう類のものは認識できないのでなぜ宿っていないのか、という質問にはお答えできませんね」
「そうですか、でも顔の宿らない柱というものに興味があるので、また来ますね。柱と顔をあわせることが趣味なので」
「ええ、お待ちしております」
彼女は席を立ち、ドリンクサーバーから一杯飲んでそのまま帰っていった。
この博物館は規模はでかいが、客は少ない。
展示物以外に興味を持ったお客さんでも大歓迎だ。
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