第478話:ルガート・ベスト~戦争の記憶~

 かつてこの世界では戦争があったらしい。

 あったらしいというのは、僕がこの世界に生まれるずっと昔、知り合いにも当時を経験した人はおらず、知識としてしか聞いたことがないからだ。

 僕が知っているかつての戦争というのは科学文明と魔法文明の価値観の相違、宗教の差であるとか技術の差である等、様々な説を聞いたことがある。

 戦争の発端の記録が残っていないのだから色々な説があるのは仕方ない。

 記録が残っているのは戦争の終盤から、お互いの文明の技術力が上がってきて記録を残す余裕が出来てから。

 この頃にはこの世界で生まれたときから戦争をしていて、理由もわからず未知の技術と相対させられたり、敵側に生まれてしまったばかりに拷問にかけられ技術を吐かされたりと、地獄のようなものだったと記録には残っている。

 そしてこの地獄の戦争はとてつもない期間続いた。

 最古の記録から戦争が終結したという記録が出現するまで2万年以上の期間があるとされており、なぜそんなことになってしまったかと言えば、投入される人材が無尽蔵立ったからである。

 例えば科学側であれば、銃を持てる程度には成長した状態で計算が出来る程度には知識もある状態で虚空から出現するのだ。

 言葉は通じなくとも即席の兵士にするのは容易い。

 更には生前の世界で戦争と関係なく進歩する技術、互いに技術の進歩を遅らせる術はない。

 もちろん魔法側も同様。

 尽きぬ兵力、止まらぬ技術進歩、泥沼化しないわけがなかった。

 そうして、ある時戦争は終わったらしい。

 最終戦闘地点だと推測される区域は今も立ち入り禁止とされている。

 お互いの最終兵器が衝突した結果世界が滅んだとも言われている。

 本当のところはわからない。

 当時それを目撃したものはおらず、その時同時にその場所で最終兵器とされる物が使われた記録が残っているだけだからだ。


 僕は端末の電源を切り、目を閉じた。

 かつての大戦争の記録は少ないながらも数多くある。

 色々な記録を読んで僕にわかるのことは、あの戦争に悪は無く、同時に正義もなかったということだけだ。


 あったのは、恐怖だけだっただろう。

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