第429話:フォードレン・マルルカ~感情の質~

「お前ってさぁ、よく笑うよなぁ」

 違う。

「君って辛気臭い顔してるよね」

 違う。

「なんでいつも怒ってんだよ」

 違う。


 色々な他人から、僕の人柄に関して色々な感想をもらった。

 だけど、どれも僕の本質を言い表してはいない気がする。

 僕は楽しくて笑っているわけでもなければ、常日頃から辛気臭い顔をしているわけでもない。当然だが、いつも怒っているわけでもない。

 だけど、彼らにとってはそう見えるらしい。

 それぞれが、それぞれの感想を持つ。

 それも、ほぼ常にそう見えるというから何かが変な気がする。

 自分では特段よく笑っているつもりも、辛気臭い顔をしているつもりも、怒っているつもりもないんだが。


 多少自分の感情に目を向けてみる。


 なるほど確かに彼といる時は笑顔でいることが多いかもしれない。

 だけどそれは、彼が笑顔だからだ。


 なるほど確かにあいつといるときは表情が暗いかもしれない。

 だけどそれはあいつが暗いからだ。


 なるほど確かに、彼女といるときは怒りやすいかもしれない。

 だけどそれは、彼女が怒るからだ。


 自身を顧みてわかったことは、僕の感情っていうものは存在していなくて、ただ相手に合わせた感情を持っているように見えるというだけのことなのかもしれない。

 いったい、僕の感情というのはなんなんだろうか。

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