第412話:バームⅢ〜人の騙し方〜
「人の騙し方?」
人の良さそうな青年は、張り付けたような笑みを浮かべる少年に声をかけられた。
少年の名はバーム、顔を変え姿を変え、己の持つ世界を渡る力を振るえるテロン街に身を隠す世界を股に掛けた大罪人だ。
この街で追っ手の鬼からわざわざ隠れる必要のなくなった彼は、この街ではよく名が通る存在になっていた。
「バームさんは人を騙すのが得意だと聞きまして」
青年はなんの悪意もなく言う、これでも誉めているつもりなのだろう。
「まぁ、な」
彼は詐欺師だ。
テロン街では自由に行動できるという特性を買われて便利屋のようなことをしているが、詐欺師であるという根は変わっていない。
『彼にものを頼むなら心の秤を自分側に長く持て』と噂されている程だ。
だから、当然のように人を騙すのが上手いという話も広がり、たまにはこういうことも頼まれる。
つまりは、慣れていた。
「騙し方を教えるのはいいが、理由はなんだ?」
当然それが気になるだろうと、バームは青年に訊ねる。
「恨みがある奴がいる、そいつを騙してひどい目に遭わせたい」
「なるほど私怨ね」
騙しかたを聞きに来るやつなんか、だいたいそうだ。
「そうだな、嘘の情報で損をさせる、罠に誘導して大ケガをさせる、意のままに踊らせる、復讐に使える騙し方はいろいろあるが、基本的で簡単な奴を教えてやろう」
「ありがとうございます!」
落ちたな、とバームは思った。
特に意味のある思考ではなかったが、ほぼ無意識に頭のなかに浮かんだ。
「ばれない嘘を吐くには、相手に信じられなければならない、そのためには嘘をついてはいけない」
矛盾しているようだが、実際嘘の極意に当たる話をバームは慣れた口調で青年に語った。
話を聞いた青年は「なるほど!勉強になりました!」と目を輝かせてバームに感謝し、妥当な額の報酬をバームに払い去っていった。
「まぁ、簡単というのは嘘なんだが」
1人になったバームは、自分の嘘を確認した。
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