第413話:ブウニー・エワクロ~潮騒に誘われて~
ザザーン、ザザーン、
波の音が聞こえる。
海が近いのかもしれない、海、か。
生まれ変わってから海なんて来たことはなかったが、久しぶりに行ってみようか。
潮騒の音が聞こえる方へ歩けば、海に出るだろう。
生来の楽観的な思考でそう考えて、うろうろうろうろと歩き続けること1時間、一向に潮の香りもしてこない。
ただただ、ザザーン、ザザーンという波の音が響くだけだ。
ここの海は塩気が少ないのかもしれない、何となく、塩気を含んだ風というのも好きだったから少しがっかりだ。
がっかりしたとはいえ、この程度のことなら特に海へ向かうのをやめる理由にはならない。
また、潮騒に誘われて歩きだす。
ザザーン、ザザーン、
波の音がまた少し近くなっているような気がする。
海はまだ見えないが、確実に近くなっているような気がする。
海と言って思い出すのは磯の景色。
ゴツゴツとした岩が重なりあい、波に削られて歪な形に組上がっている自然の彫刻。
人工物には出せない、計算されていない、文字通り天然の美しさがそこにはあった。
そしてそれは、多種多様な生物の根城としてあり、美しさと気持ち悪さを絶妙に同居させていた。
だから、遠くから磯を眺めるのは好きだったが、あまり好んで立ち入るということはなかった。
ここから近くにそんな磯はあるのだろうか、あるとしたらどんな生き物がいるのだろう。
久しぶりに中を覗いてみるのも悪くはない気分だ。
歩き始めて2時間。
潮騒は見つかった。
そこには、塩気を含んだ風も磯の景色もなく、ただ海の色をしたガラス玉が台座にのせられているだけだった。
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