第405話:ミロシ・レカール~結婚前夜~
「乾杯」
「ああ、乾杯」
2人きりでグラスをぶつけてチンッと小気味いい音を鳴らす。
僕は明日、結婚する。
目の前で酒を呷る男とではない、彼は前世からの友人で結婚前夜を祝いに来てくれたんだ。
「それにしても結婚なんて、よくこんな世界でする気になったな」
「いやぁ、僕も悩んだんだけどさ。やっぱり結婚しておきたかったんだ」
「意味もないのによくやるね」
「うーん、意味がないから、かな」
「そうだな、お前はそういうやつだ。意味のないことに意味を見出す。いや、この場合は少し違うか」
「よくわかってるじゃないか」
はははと二人で笑いあう。
この世界で結婚するというのは、難しいことではない。
生活は保障されているし、手続きも申請一本出すだけ、相手がいて同意さえしてくれれば、特段何かを求められることもない。
だけど、この世界で結婚をするのは少数派だ。
その理由は必要がないから、結婚したところでできることは増えないし、それは結婚しなくてもできることだ。
結婚で相手を縛るということもない、いや、精神的には少し縛ることになるのかもしれないが、法的に拘束力はない。
そもそも子供もできないし、本当に結婚するということに意味がない。
あるとすれば、多少不自由になる程度か。
「これからは、彼女に、いや嫁さんに時間使うんだろ?なかなか会えなくなるな」
「そんなことはないさ、今までと同じだよ。結婚することに意味なんてないんだから」
「そうはいっても、お前なぁ」
「さて、そろそろお開きにしようか。明日は早いからね」
「ん、まぁそうだな。よし、最後にもう一回乾杯しようぜ」
「ああ、いいよ」
グラスに酒を半分ほど注いで、お互いに掲げるように持つ。
「独身最後の夜に乾杯」
「これからのお前らに、乾杯」
僕は今に祝福を置き、彼は未来に祝福を送った。
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