第382話:ロニー・クロッカス~悪性の正義~
老若男女の集団が、一人の男を囲んで殴り続けている。
男に意識はなく、血みどろで倒れている。死んでいるのかもしれない。
集団は、意識がない男を殴り続けている。
僕はそれを一歩引いたところから眺めていた。
僕はそれを最初から見ていて、なぜ男が殴られ続けているのかも知っている。
男は悪人だったのだ。詳しくは知らないが、彼に騙されたという別の男が、彼に向かって大声で、周りに聞こえるように、彼のしたことを問い詰めた。
そしてそれを聞いた一人の若者が、男を殴った、正義の名を唱え罰を与えた。
それを見ていた人の中で正義感を刺激されたものは次々と己の正義の名を唱え男を殴った。
それを見て気分を悪くしたものは場を離れ、その場には傍観者と各々の正義を持った者だけが残った。いつのまにか男に騙されたという男は消えていた。
そうして新たに通りかかった者は事情を聞いて、男を殴るか傍観者になり、うわさを聞き付けた者が集まり冒頭の状態になった。
今はもう、事情も聴かずに殴られているから悪人なのだろうと殴るものまで現れている。
彼らは皆、己の行動が正義だと思っている。
この場に、悪しき心で男を殴っている者は一人もいないのだろう。
そろそろ、予定の時間が近づいてきたと、彼を殴る正義を持ち合わせていない僕はその場を後にした。
数日経って、見覚えのある男が見覚えのある状況になっているのに遭遇した。
少し違うのは、男とは一番最初に殴りつけた男であり、その男が集団に殴られているということだ。
話を聞いてみれば、彼は悪人だという、悪人であり罪人であるから故、殴られているのだと。
はて、彼は正義の人ではなかったか、これは一体どういうことだろうか。
しかし、彼を殴る正義を持ち合わせていない僕は、その場をそっと後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます