第381話:オリバ_エオ~語り部は言葉を紡がない~

「さて、今日のお話はおおよそ、今から600年前にとある世界で起きた戦争のお話」

 語り部は話し始めた。

 無限に続くように思われる、派手さはなく、資源的な消耗も少ないが住民の精神の損耗だけは誰も意識することなく確かに存在する戦争の話、ある日突然終結の英雄が現れ両陣営に多大な被害をもたらし戦争を終わらせた話を。


「さて、今日のお話は機械に支配された世界で人としての尊厳を取り戻そうと奮闘する人たちのお話」

 語り部は話し始めた。

 人々の幸せな世界を求めて作り出された機械が不幸を生み、それに抗うレジスタンスが最後の1人になって機械の中枢を破壊する話を。


「さて、今日のお話は――」

 語り部は語り始める。

 いつも違う世界で起きた物語を、定期的に、いままで数多くの話を語ってきた。

 ある日、語り部の話を聞いていた青年が訊ねた。

「なぜ、そんなにもたくさんの世界の物語を紡げるのですか?」と。

 語り部は、少しだけ考えてからひとつだけ答えた。

「私は、図書館に通うのが趣味なのです」と。

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